■犬


犬は走りだした。

より早く走るために犬は馬になった。
馬は走り続けた。
馬は、流れの急な川にぶつかった。
馬は魚になった。
魚は泳いだ。
他の大きな魚に食べられそうになりながらも、なんとか川を渡りきると魚は馬に戻った。
馬はまた走り続けた。今度は大きな谷にぶつかった。
馬は鳥になった。
鳥は得意げに、谷を飛び越えると馬に戻ってまた走り出した。
走っていると雨が降ってきた。
雨宿りをするために近くの森に入った。
森にはかわいいメスのリスがいた。
馬は恋に落ちた。
馬はオスのリスになり、メスリスに近づいた。メスリスは木に穴を開けただけの家にむかえいれてくれた。
数ヶ月後… 2匹のあいだに、かわいい子リスが生まれた。
元は、犬だったオスリスも、この森でリスとして落ち着こうと思った。
オスリスとメスリスと子リス、親子3匹 仲良く幸せに暮らしていた。
だが、幸せは長く続かなかった。
いつものように、木の実をおなかいっぱい食べて帰ってくると 大きな蛇に、メスリスと子リスが襲われていた。
どうすることもできなかった。
オスリスの目の前で、2匹はゆっくりと飲みこまれていった。オスリスは、逃げた。
安全な場所まで来ると涙が溢れだして止まらなくなった。オスリスは自分の非力さに腹がたった。
オスリスは、一人ぼっちになった。思い出すのは、いつでも、かわいい子リスとメスリスのことだけだった。
オスリスは死にたくなった。
死にたくて、死にたくて、たまらなくなった。

自殺するためにオスリスは、人間になった。

[作]山田まるお


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