-おっぱい触らせてあげようか?-


朝起きると僕はおっさんで動物園に勤めている。

毎日、キリンを見れるかわりに糞尿の掃除をしなければならない。
(辞めちまえよ)頭の中で誰かが言う。
(そうだな辞めちまおう)頭の中の僕は応えた。
頭の中の僕の言葉とは裏腹に体は糞尿に向かい黙々とそれらを始末する。


休み時間が終わると僕は小学4年生で、上級生に囲まれていた。

リーダーらしき男が僕に言う。
「17時までに、クワガタ虫14匹だ。14匹もってきたら許してやるよ1秒でも遅れたら…だぞ!わかったな!」
そう言うと上級生達は消えた。
足元には、虫篭が転がっていて、目の前には夏の森が広がっていた。
(いくのか?)頭の中で誰かが言う。
(いかないよ)頭の中の僕は笑う。
頭の中の僕の言葉とは裏腹に、体は虫篭を小脇に抱え夏の森に走り出していた。

走り出してから10分もすると僕は犬で体には爆弾が巻きつけられていた。
数字で呼ばれていた僕は、まっすぐ走り続ける訓練を受けていた。
(8号、このまま走り続けるのか?)頭の中で誰かが訊いた?
(8号って呼ぶな!)頭の中で僕は怒鳴った。

気がつくと僕はバッターで、金属バットを持って構えていた。

ピッチャーマウンドでは、黒人のピッチャーが、ガムを噛みながらニヤニヤ笑っている。
ピッチャーは僕めがけてタイヤを投げた。
そのタイヤはとても大きかった。
きっとトラックのタイヤだな。何屯トラックのタイヤかな?」
等と思っているうちにもタイヤはグングン僕に近づいてくる。

(打つのか?)頭の中で誰かが言った。
(打つんだろ!構えてんだから…)頭の中で僕は応えた。
(でもあんなの打ったら、きっと手が痺れるぜ)頭の中で誰かが言った。
(そうだな、打つのは辞めよう避けよう)頭の中の僕の言葉とは裏腹に体はフルスイングで
タイヤを叩く。

パキーン!って音が鳴ってタイヤは場外に消えていく。
手は痺れていない。

(走るのか?客席に手でも振りながら、ゆっくり一周したりするのか?)頭の中の誰かが僕に訊く。
(いや!そんな暇はなさそうだ)頭の中の僕が言う。

ピッチャーは、さっきより、ひとまわり大きいタイヤを投げてきた。

僕の金属バットは普通の大きさのままだった。
(打つのか?)頭の中で誰かが言った。
(打つんだろ!構えてんだから…)頭の中で僕が応えた。
(でもあんなの打ったらきっと手が痺れるぜ)頭の中で誰かが言った。
(そうだな、打つのは辞めよう避けよう。あれ!さっき…)体はやっぱり言葉とは裏腹にフ
ルスイングでタイヤを叩く。

パキーン!と音が鳴ってタイヤは場外に消えていく。
手は痺れていない。

それから数回同じことが続きピッチャーから投げられるタイヤはどんどん大きくなった。
僕の金属バットは普通の大きさで、それでも面白いようにタイヤは
パキーン!と場外に消える…。



「おっぱい触らせてあげようか?」と言われた1ヶ月後、僕は死体でドブ川の橋の下で腐乱していた。

(終わるのか?)頭の中で誰かが訊いた。
(終わらねーよ)頭の中で僕は応えた。

[作]山田まるお


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