−とっても悲しい物語−






朝、ラジオで・・・・

「楽しけりゃいいじゃん」と誰かが言った。
単純な丸男は「そうか、楽しけりゃいいのか」と奮い立った。
その勢いで4年間、勤めてきた会社に辞表をだした。
「楽しけりゃいいんだ、これでいいんだ」とブツブツ言いながら会社近くの公園のベンチに腰をおろした。
会社の同僚で、丸男の恋人の花子が会社から追いかけてきた。
「何 考えてるの?会社辞めてどうするのよ!」
怒る花子に丸男は朝のラジオを思いだして言った。
「楽しけりゃいいんだよ」


丸男にも負けず劣らず単純な花子は目から鱗が落ちたような顔をしている。

丸男と花子2人は今日会社を辞めた。  



「よし2人で楽しいことをしよう」と丸男が言った。
「何をするの?楽しいことって?」 花子が少し不安そうに訊いた。
「とりあえず、あれを貰いに行こう」 と丸男が指を刺した先には、本日開店の薬屋の前で、きぐるみのパンダが子供に風船を配っていた。
貰った風船を花子に持たせ 丸男はサングラスと帽子を買い 変装をかさねて何回にもわけて風船を10個ためた。

10個の風船を持ったスーツに帽子とサングラスの丸男はかなり怪しい人にみえた。 



丸男と花子は丸男の部屋で、くつろいでいる。天井には赤・青・黄とカラフルな風船がクーラーの風にゆられていた。
突然 「やっぱり会社やめなきゃよかった」と言いながら花子は泣きだしてしまった。

ちいさく震える花子を丸男がそっと抱きしめて言った。「花子、今日 何の日か知ってる?」

「えっ 今日、何かの記念日だったかしら?わかんない、いったい何の日なの?」花子は泣きやんで訊いた。

「ゴミの日」 吐き捨てるようにそう言うと、丸男は台所から黒のゴミ袋を持って来て風船を詰め始めた。風船の入った、浮くゴミ袋を作って「出掛けるよ」 と丸男が花子に言った。

花子は急いで顔を洗い化粧をして、浮くゴミ袋を持った丸男の後について部屋を出た。15分くらい歩いて辺りをキョロキョロ観ながら「ここが良い、実に良い」そう言うと丸男はマンションの前の道に出してあるゴミの山を動かし、その中に浮くゴミ袋を慎重に、はさみ込んだ。

はさみ込むとマンションの屋上に上って、そのゴミの山を眺め始めた。
花子が「風船 捨てちゃったんだね、かわいかったのに」と悲しそうに呟いた。

丸男はだまってゴミの山を眺めている。

「きた!」と丸男がさけんだ。花子が見てみると、ゴミ収集車がきていた。ゴミ収集車のオヤジが2袋づつゴミを収集車に投げ入れていく。そのときゴミ袋の山が少し崩れて1つのゴミ袋が宙に浮かんだ。ゆっくり、空に上がっていくゴミ袋を混乱しながら不思議そうに見上げるオヤジを見て花子が「キャッキャッ」と かんだかい声で笑った。

   

笑う花子を抱きしめて丸男が言った。
「むかし僕が好きだった考え方を今、好きだと他人が言うとバカだなと思う。それは、むかしの僕をバカだったと後悔しているわけじゃなくて、まだそこか と思うんだ。最近強気な人が増えた。自分を誉めてみたり他人をけなしてみたり、本気で自分なんかを誉められる人なんて、いないと思う。本当に強気な人はバカだと思う。たまに本当に強気なときが僕にはある。たぶん僕はバカなんだと思う。結婚してくれないか?ビックリするくらい幸せにするから」
丸男のプロポーズに花子は泣きながらオシッコをちびった。カバンからハンカチを出し、まず涙を拭いてからオシッコを拭いた。「オシッコ好き?」花子が笑顔で丸男に訊いた。「もちろん!」と丸男は応えた。
1ヶ月後、失業保険を使いハワイで結婚式をあげた。

[作]山田まるお


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